目がまわった。
ぼうっとしながら考え事をした。小4の少女がふらりと消えて、当日に捜索願いが出されたという。僕がふらりと消えたら、どうなるか。
まあ男ということもあり、実際にあまり家に帰っていないから、せいぜい一週間は気付かないだろう。一週間を超えたあたりで、どうもおかしいと感じ始める。両親はまず捜索願を出すだろう。両親は僕の人間関係についてほとんど知らないから、大学に連絡したり、バイト先に連絡するといったかたちで上から上から僕を探すだろう。限りある地元の友人は、僕のことをそんなに知らない。両親よりおそらく敏感に察知し、動き始めるのは恋人だろう。恋人は僕の人間関係をある程度把握しているから、下から下から僕を捜索することになる。
さて、僕はどこへ消えたのか。
結局それは、どこでもよかった。それは家の近くの明かりのない公園でも良かったし、ヨーロッパの山中にある誰もいない草原でもよかった。まあどこへ行くということは関係ない。とりあえず、僕は家に泊めてある車のトランクの中にひとり忍び込むことにしよう。井上陽水も「探すのをやめたとき見つかることもよくある話で」と歌っているし。
トランクの中ですることは、とりあえずこんな気分のときに歌う歌を、声を出さずに歌うことである。これは僕はとても迷った。いくつか歌ってみるが、どうにもしっくり来ない。愛の歌か、死の歌か。食べたピザが辛い歌か、日曜日の放水の歌か?とにかく分かっていることは、トランクに入った以上は開けてもらわないと出られないことだ。いなくなって嫌な思いをする人は少ないだろうが、僕は昨日飲んだバニラコーラがあまりおいしくないということを誰かに言っておきたかったと悔やむ。