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2010.8.19

Kitano par Kitano/東京ふつうの喫茶店

Kitano par Kitano 北野武による「たけし」

ミシェル・テマン『Kitano par Kitano 北野武による「たけし」』

著者は日本に住むフランス人なのだが、あんまり日本語が得意ではないのか、北野武の付き人であるゾマホンの翻訳を通しつつ、本人にテレビや映画、政治から経済、生い立ちまでインタビューをして、それをまとめた本。北野武のインタビューや本は色々読んできたけど、この本が一番面白いと思ったかも。これまでは「人間・北野武」を知りたいというとき、どうしても子どものときから見てきた「ビートたけし」の存在が、ちょっと邪魔をしてしまうなと思うことがあった。この本では、本人の語り口が活字になるまでにたくさんのフィルターがかかっているので、話し方がテレビで見る「ビートたけし」っぽくないし、それに加えて、たぶん外国人としては、「ビートたけし」の前に「北野武監督」であるという取っ掛かりも相まって、ものすごく描写が客観的というか、先入観がすべて取り払われたような状態で、インタビュー内容を受け取ることができる。

案外、「ビートたけし」は政治討論の番組なども持ちつつも、政治的スタンスはぼやかしているという印象があったけれども、このインタビューでは、彼のかなりリベラルな政治観・国家観を知ることができるし、たとえば山田洋次監督とはソリが合わないとか、そういう話も、聞き手である著者が上手に引き出していると思う。全作品を解説させたりする丁寧さも好きだ。インタビューには数年かけたと書いてあった。

東京ふつうの喫茶店

泉麻人『東京ふつうの喫茶店』

僕も、街を歩けば、すてきな喫茶店に入るのが好きではあるが、著者の場合は、もっと真剣に、いろんなところを廻っている。「ふつうの喫茶店」というタイトルの、「ふつう」という部分が、とても新鮮に感じられる。この本で取り上げられている喫茶店は、現代の東京カフェ事情を鑑みても、決して「ふつう」ではない。そこには、チェーン店系のカフェや、テレビのセットみたいなカフェが街にたくさん増えてきて、それはそれで良いけれども、俺は落ち着けないよ、という小さな反発心というか皮肉みたいなものが込められていると思うし、こういう喫茶店が「喫茶店」だよなぁ、そうであってほしい、という期待もかけられていると思う。

喫茶店レビューと言いながらも、けっきょくはその喫茶店がある街の話や、歴史の話になる。そういう、こもごもも含めての「ふつうの喫茶店」なんだよなぁ。かつて制作していたテレビ番組のコーナー「もじあるき」のロケハンで、決められた街を歩きつぶしながら、時間を見つけては「ふつうの喫茶店」にいそいそと入っていたことを思い出した。だいたい、そういう店って、あーそろそろ疲れたな、と思う地点にあったりするんだよね。